不動産テックまとめ

総合商社勤務。都市開発・不動産に関わるテクノロジー等の情報をアップデートしていく。

【書評】「教養としてのテクノロジー AI、仮想通貨、ブロックチェーン」(伊藤穰一)

”「多くの人々が技術的な仕組みを理解すべきだ」というわけではありません。むしろ、その背景にある考え方、すなわち「フィロソフィー(哲学)」として理解をすることが不可欠となってきました。これまで「教養」と呼ばれてきたレベルで、テクノロジーについて本質的な理解が必要となったのです。”
「テクノロジーに関して疎い」そんなことを言ってられないということを痛感した一冊だった。
 
MITメディアラボ所長の伊藤氏著の現代のテクノロジーに対する考察(AIが労働をどうかえるか、仮想通過、ブロックチェーン、テクノロジーで人はどうかわるか)がわかりやすく纏まった一冊。
 
冒頭ではスケール・イズ・エブリシングの考え(規模こそすべてで新規上場をめざし、企業価値を向上させ、投資家VCを募り、更に株価を向上させる)が浸透しているシリコンバレーにおいて著者は疑問を抱いている。”「1つに集中させるのではなく、たくさんの組織やサービスに分散させたほうが「リジリエンス(回復力、しなやかさ)」は高いはずだ、というものです。”と述べるように適切なサイズで分散化させる必要性を説いている。また、シリコンバレーでは「シンギュラリティ」に系統する人が多々いる(シンギュラリティとはAIが人口知能の知能を超える転換点)例を出しながら、そのような社会でのこれからの働き方に関しての著者の考えを述べている。
 
著者はテクノロジーによって人間がどうかわるかということを考える上で都市がどう変わるかを考えるべきとあげ、”歩ける距離を大切にする「ペデストリアン・シティ」”の重要性を述べながら”世界の都市を見るときに、重要な視点は「モビリティ(移動性)です」”と述べている。”都市の再開発は、自動運転車の導入を前提としたほうが良いと僕は思います。例えば、グーグルはトロントウォーターフロントでそうしたことをやろうとしています。「国の予算」という日本的な都合もあるでしょうが、同じような取り組みを日本でもちゃんとやったほうが良いと思います”→まさにそうだと感じた。それを主体的に進めることができるのはやはり政府、民間が共同で進めなければ難しいだろうと感じる。
 
著者が述べているように”テクノロジーの可能性気づき、未来に期待をふくらませるきっかけ”になる一冊であった。

 

ZORC(②Opendoor)

ZORCの2つ目Opendoorについて述べる前にまずは、「iBuyer」に関して改めて述べたいと思う。

iBuyerとはオンラインでの買取再販事業、価格査定アルゴリズムを活用して売り手から直接物件を買い取り、その後転売するビジネスモデル。住宅を売却する際の従来のプロセスは「査定→販売開始→価格調整→内見→交渉→売却」と約2ヶ月〜半年程度時間を要する。その長期の時間を要する仕組みを査定→売却という約2日で簡略化させたのがiBuyerのモデルである。

具体的にはOpendoor、Offerpad、Knockといったプレイヤーが存在する。その中でもトップをいくOpendoorが2018年3月に2,000億円の評価額で200億円の資金調達をするという報道があり業界を騒がせた。また同時期にはZillowもiBuyer市場に参入することを発表。

 

Opendoorは2013年に操業開始、操業から3年足らずでユニコーン企業に名乗りをあげた。住宅の売り手側の売却の流れは、まずOpendoorのWebsite上に築年数、住所等を入力すると当日〜2日以内にメールで仮オファー及び大まかな査定額が送られてくる。その後アドバイザーと電話で相談後、売却に関わる懸念事項を解消する。正式なオファーに納得がいけばオンラインにて署名、その後修繕の有無等を確認の上、売買契約履行の日程が確定する。住宅の売り手は売却価格が市場価格の90%程度となってしまうが一方で現金化を迅速化させられる点、瑕疵担保責任を請け負ってもらえる点といったメリットよりOendoorを利用する。一方、買い手側のメリットとしては購入後30日間キャッシュバック保証や通常の倍の2年間の修繕保証があげられる。

 

Opnedoorはソフトバンクの出資と同時期にデジタル仲介Open Listingの買収を決定し事業の多角化を進めている。Open Listingは内見、申し込み、契約の各業務を分割し、内見はアルバイトに任せ、申し込みはオンラインのみとしエージェントは契約交渉のみに特化することでコスト削減を図ることを可能し仲介手数料は半額となっている。この買収はOpendoorに住宅を売却した顧客から次の住宅購入時の仲介を獲得することを目的とみられている。

 

現在iBuyer事業にはZillow、Redfinも参入してきており、今後も更に各企業の真価が問われるだろう。今後の業界の行方には注目したいと思う。

MaaS①

まずMaaSとは総務省は下記のように定義づけている。

「電車やバス、飛行機など複数の交通手段を乗り継いで移動する際、それらを跨いだ移動ルートは検索可能となりましたが、予約や運賃の支払いは、各事業者に対して個別に行う必要があります。 このような仕組みを、手元のスマートフォン等から検索~予約~支払を一度に行えるように改めて、ユーザーの利便性を大幅に高めたり、また移動の効率化により都市部での交通渋滞や環境問題、地方での交通弱者対策などの問題の解決に役立てようとする考え方の上に立っているサービスがMaaSです。」

 

世界に先駆けMaaSを導入したのはフィンランドヘルシンキ)で「MaaS Global社」が主導で進められてきた「whim」というサービスは電車・バス・タクシー・レンタカー等の交通手段とリンクしており、またそのシステム上においてクレジット決済が可能である。目的地を入力すると数パターンの移動手段、価格等が表示され選択できる。使用方法は大きく3つに分かれている。経路検索と都度決済機能のみの利用プラン、公共交通機関を頻繁に利用する人向けに月額49ユーロで利用し放題のプラン、月額499ユーロで公共交通機関+タクシー・レンタカー等もある一定の制限の上乗り放題のプランがある。

 

移動の不便さが解消されることにより地方の不動産価値が高まる。MaaSの機能がある物件や地域とそうでない物件・地域で差別化要因となる為、不動産業界において大きく影響してくるだろう。

OYO LIFE

OYOとはインド発のスタートアップでOravel Stays Private(オラベル・ステイズ・プライベート・リミテッド)が運営するホテルの予約サービスだ。予約サービスといっても単なる旅行者等にホテルを紹介するだけのサイトではなくOYOがホテルを借り上げて彼らの基準を満たしたホテルのみがOYOチェーンとして認められる。スタートアップにも関わらず既にインド最大手のホテルチェーンとなりユニコーン企業へと成長している。そのようなOYOが2つのサービスを日本で立ち上げた。1つはヤフーと共同で立ち上げた「OYO LIFE」という賃貸サービス、もう一つはソフトバンクと共同で開始するホテル事業。

 

OYO LIFEOYO TECHNOLOGY & HOSPITALITY JAPAN株式会社」が提供する、非常に斬新的な賃貸サービスでスマホだけで契約まで完結し入居できる。また部屋の使用料はクレジット払いが可能で敷金・礼金・仲介手数料ゼロ、家電家具付きで住み試しが可能である。家探しに手間がかかること、初期費用が高いことこの2点の課題を解決するサービスで契約期間は1カ月から可能となっている。インテリアや家電、カーシェアリング、シェアオフィスサービスなどをサブスクリプションサービスとして使用が可能、現在初月は無料とのこと。

 

OYO LIFEのサービスが浸透してくれば日本の賃貸市場は大きく変化する可能性はあるかもしれない。

 

ZORC(①Zillowについて)

最近GAFAはかなり浸透したワードになってきたが、米国においてここ数カ月ZORCというワードが注目を浴びだしているとのこと。

 

ZORCとは何の略か?米国で成長著しい不動産テック企業の代表である4社の頭文字をとったものである。

 

Z:Zillow

O:Opendoor

R:Redfin

C:Compass

 

今日はまず「Z」Zillowの事業概要を簡単に記載したいと思う。

Zillowコーポレーション(Zillowの運営会社)は、元マイクロソフト社のリッチ・バートンとルロイド・フリンクによって設立された。住宅の売却や賃貸の情報を掲載するサイトを運営し仲介業者からの広告収入を主な収入源としている。Zillowが選ばれる最大の要因はその情報量。掲載数は1億件以上。市場で販売されている物件のみならず、販売の予定さえない物件までもが掲載されている。特徴としては物件の価格推移や売買履歴がわかること、また間取りや内装を見ることができることである。Zillowの影響によって売却想定額がオープンになっているアメリアではZillowが独自に査定した「Zestimate」という判断基準ができあがっている。Zillowは同業態でシェアを分け合っていた「Trulia(トゥルーリア)」を2014年に買収し、不動産検索サイト市場で全米最大のシェアを占めている2019年4月にはユーザーが、オンラインのバーチャルツアーで物件の部屋から部屋を見て回れる「3D Home」という機能を追加した。直近の動きとしてはOpendoorがソフトバンクから多額の資金を調達し成功をおさめているのをみて脅威と認識し、iBuyerに本気で乗り出そうという流れになってきている。同タイミングでリッチ・バートンがCEOに返り咲き本気で取り組む姿勢がみてとられる。

 

このようなZillowの事業には米国独特の不動産流通システムであるMLSの情報開示が密接関係している。MSLというのはMultiple Listing ServiceのことでMSL上で売り出し中の物件情報を交換できる。MSLの詳細に関しては別途改めて記載したいと思う。

 

いずれにせよ、日本でも日本版Zillowと呼ばれるようなサービスが出てきているようなので改めてそちらもチェックしたいと思う。

不動産テック特化VC等

今日は不動産関連のベンチャーファンド、CVC等の出資事例を数点記載したいと思う。海外での動きと共に国内、三井不動産三菱地所の事例も簡単に記載したいと思う。

 

投資ファンドブラックストーングループ

・世界最大の投資ファンド運用会社ブラックストーングループが2012年に自社の業務改善に寄与すると見込まれるスタートアップに投資

VTSのシリーズA330万ドル)資金を投資

・世界中に保有する不動産のリーシング管理を一括でVTSに任せて急成長させた。

VTSはブラックストーンの信用力をバックに利用者数を伸ばしていき1611月には最大の強豪相手だったHightowerを買収し、時価総額3億ドルとなった。

 

MetaProp NYC

・ジローとニューヨークの住宅仲介準大手Warburg Realtyが中心となって設立

5年間で数十社のスタートアップに対して500万ドル」を投資する計画をたて、100社を超える応募があった

三井不動産が出資、クッシュマンも協業パートナー

 

■フィフスウォール(Fifth Wall Ventures

・ゴールドマンサックス出身者が16年に設立。CBRE、不動産開発大手Hines、賃貸住宅大手Equity Residential宅建設大手Lenar物流大手Prologis、また三菱地所等から2億ドル以上の資金を調達している。

・第一号ファンドの資金はコーワーキングスペース運営会社のインダストリアス8000万ドル、Opendoor3500万ドルを投資

 

CVC

個別のスタートアップに投資したり、ベンチャーキャピタルに投資するだけではなく、不動産の価値を高める目的、事業活動の変革を図る目的の為に一歩進んで自らのアクセラレーターを立ち上げる会社も出てきた。例えばニューヨークでオフィスを保有していたMilstein Properties堅苦しいイメージを払拭する為にグランドセントラルテックというアクセラレーターを設立してスタートアップを募集。その他にもSimon PropertyグループやJLL等も同様の取組を進めている。

 

次に毎年100社近くの不動産テックが創業している米国と比較すると数は多くないが、日本でもいくつかのプレイヤーが誕生している。

三井不動産の取組

VCのグローバルブレインと共に300億円規模のファンド立ち上げ(20185月)

・米国においては500 startupsDraper Nexus Venture Partners、などのシリコンバレー有名VCに出資。また不動産特価型アクセレレーター MetaPropにも投資

 

三菱地所の取組

1811月にDX推進室という組織を作り、国内外の不動産テックへの投資や提携に向けて本格的な取組みを始めた。

クラウドリアルティ、スペイシー、ナーブ等に出資。またFifth Wall Ventureにも一部出資している。

 

Open Network Lab Resi-tech

国内初となる不動産型の特化スタートアップ投資。三井不動産野村不動産、東京建物、鉄道会社、ゼネコン等が出資。

 

2019年のPropTech

不動産テックに関するイベントの記事を見つけたので記載。

https://medium.com/proptech-japan/%E6%97%A5%E7%B1%B3proptech%E3%81%AE%E9%9B%84%E3%81%8C%E8%A6%8B%E3%82%8B2019%E5%B9%B4%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3%E3%83%86%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%A8%E3%81%AF-e59dbf4fa71?source=collection_home---4------2---------------------

 

2018年のPropTech(不動産テック)のキーワードは「セラー」と「トランザクション」またソフトバンクビジョンファンドの影響力が大きい。例えば*OpendooriBuyerのビジネスモデルは競合ともあまり差はないが巨額の投資を行ったソフトバンクの影響力は大きかった。「日米の不動産スタートアップのビジネスモデルや技術力に差はない」が決定的な違いは資本市場の厚みである。日本においても大企業からそのようなスタートアップへの資金が流れることで不動産業界を大きく変えていくような動きにならないだろうか。

 

OpendooriBuyerとは

2014年にペイパル出身者らが立ち上げた住宅買取サービス

iBuyerとはインスタントバイヤーの略でAI等の技術を使って住宅を大量に査定、購入、転売する。

・売却を希望する顧客が住宅の見積もりをウェブ上で依頼しiBuyerAIにより周辺類似事例等をもとに課価格を算定し提示

OpendooriBuyerの先駆者でソフトバンクより4億ドルの出資を得ている

 

 

米国の不動産テックは黒船となるか

MSLが無いことより、ビジネス環境の違いが大きい一方でiBuyerのような仕組みは可能性があるのでは?日本でも既に「すむたす」がサービスを開始している。